セルフエスティームを高める支援の在り方
          〜自己理解力と自己表現力の育成を通して〜

一 課題設定の理由
 
 「知らん」「わからん」「関係ない」「どうせ自分は…」等々・・・。子供たちのこんな言葉が、今日も私の耳に入ってくる。自信を喪失し、自分の言動に責任を持とうとしない子供たち…。感情を何にぶつけていいのかわからずいらだったり、他人を否定することで心に安定感を取り戻そうとしたりする子供たちもいる。逆に、自分を捨てて周囲の人たちに順応することに必死という子供たちもいる。 
 彼らは他者と表面だけの関係しか結ぼうとせず、自分を見つめることにも認めることにも臆病である。否定されることを極度に恐れ、自分を傷付けないために人との関わりを避けているかのようである。
 どの子もそれぞれに人間としての魅力にあふれ、輝いているというのに、それを適切に表現することも苦手である。これまでの人生の中で自己表現の仕方、行動の仕方を学んでこなかったのだと感じる。そして、自分の価値を認め、信頼し、期待を寄せる感情、すなわちセルフエスティームが希薄なままに日常生活を送っていると感じずにはいられない。
 セルフエスティームはよりよい生き方を学ぼうとする上での基礎となる重要な自己意識であり、また生き方を学ぶ中で徐々に高められてもいく認識である。いわば、教育の必要条件でもあり目標でもあると思う。つまり、セルフエスティームと自己理解力・自己表現力は可逆的で相即的な支え合いの関係にあると思うのである。
 そこで本課題を設定し、「子供たちが自分と向き合い、自分を認め、自分らしく行動する力を付けることで、ありのままの自分を受け止める自信や感性が養われ、セルフエスティームが育つのではないか」という仮説のもと、教師の支援はどうあるべきか追究することとした。
 ここでは自己理解力を、「自分についての情報を正確に理解する力」、自己表現力を、「自分の考えを自分らしく表現する力」と捉え、その育成に向けて努めてきた。

二 実践の概要
 
7月にアンケート調査を行ったところ、学校が楽しいと答えた子供は9割に上ったが、クラスのみんなを好きかという問いには3割弱が好きではないと答え、同じく各3割弱(2名を除いて別の子供)が自分は友達から好かれていない、人は自分のよいところを分かっていないと回答した。このアンケートにより、多くの子供たちが自分自身や友達関係などに自信を持てないでいる実態が浮かび上がった。
 そこでまず、自分のよいところを自分で確認するために、
「自分が好き?」(学活) の授業を仕組み、自分を見つめさせることにした。ここでは、自分の長所・短所を書き出したり、友達が見つけてくれたよさを確認したりする活動を通して、子供たちが長所も短所も不完全さも、ありのままの自分としてまるごと受け止められるよう支援すると共に、短所や自信のなさばかりにとらわれず前向きに生きていけるよう、自分を大らかに認める捉え方のヒントを与え、後の「楽しく生きよう」の学習への足がかりとした。
  自分で短所と思っていても、実は身近な大人の価値観をそのまま受け止めている に過ぎないものや、短所でなく個性と言えるものも多い。例えば「テレビを見過ぎる。」は、「いろんなことに興味があるんだね。」という風に、それぞれの行動は長所の別の表れ方でもあることを話すと、どの子も安心したように笑顔が広がったのが印象的だった。  
  終末には、「自分のことがよく分かった。」「こんなにいい所があるとは知らなかった。」「こんなふうに思われていると思わなかった。」などの発言があり、自分で 思うのと他者が思うのとでは違いがあることにも子供たちは気付いていった。
 終末になっても自分を好きでないと答えた子供については、事後もふれあい・語りかけに努めている。彼らに共通するのは、誰かの役に立っているという自己認識がないことであったので、事ある毎に賞賛し、周りの子供に紹介するよう心掛けている。
 次に、自己への理解を更に深めたり、希望を持って生活できるようにするために、
 「どう見られたいのかな?」(道徳)「将来の自分」(学活)によって、自分で期待している自己像を確認する学習を行った。どの子も自分の得意なことや興味あることなどを自覚して、現在と将来の自分に期待を持っている様子が窺えた。そこで、自信をもつとはどういうことか、自分と他人の人権を守るとはどういうことなのか、自分や他人とよりよく付き合うにはどうすればいいのか等を考えたり行動したりするために、ロールプレイ中心のワークショップを行った。ここでは自己表現をよりよい人間関係を築くスキルの一つと捉え、返答の仕方や行動の仕方・発想の転換の仕方を具体的にシュミレーションした。
 
「自分で守る自分の心とからだ」(学活)では、子供に保証されるべき権利について知ったり、自分を守るためにどう行動すればよいかをシチュエーション別に考えロールプレイしたりした。とっさの時に身を守るための「とっておきの大声」の練習では、5名の子供たちが最後まで大声を出せなかったが、昼休み等にも練習することで自信を得ていった。「楽しく生きよう」(学活)では、自分がいらいらする時やわくわくする時を書き出したり、どう考えれば心が落ち着くかなどを考え合い、ストレスへの対処を練習した。その後、実際の生活場面でこの体験を生かそうとする子も見受けられ、頼もしく思った。
三 まとめ
 
これらの実践により、教師や周りの大人の投げかけ如何で、よくも悪くも育っていくのが子供なのだと改めて感じた。我々大人が、子供にとって望ましいと思う結果のみを追い求め、方向性を示すばかりでなく、解決に向かうための一つ一つの取組みの過程を大切に、物事に落ち着いて取り組む子供の地道な努力を正しく評価する目を持つことが、子供のセルフエスティームの形成を助ける大切な第一歩だと思う。
 換言すれば、セルフエスティームをどう築くかはストレスの多い現代社会を生き抜く我々一人一人の日常課題でもあり、我々自身が地道な努力を忘れず、子供たちのよきモデルとなる生き方をすることが何よりも肝要なのだと感じた。
 今回の実践では、この他にも、何事も心穏やかに善意で受け止めることの大切さや、違いを乗り越え、違いを尊重し合うことの大切さなど、様々なことを私自身も学ぶことができた。気になる子供の数は年々増え、個別指導がうまくいかずに悩むことも多いのだが、集団力学の働く学校だからこそできること、友達といっしょだからこそ成し遂げられることはたくさんある。自己理解と自己表現の学習も、集団の力があったからこそ理解も深まり成果があがったと感じる。 
 子供たちには、セルフエスティームの高い、今より素敵な自分に変わる努力ができる子に育っていってほしい。そして私自身も、何が子供たちに必要なのか、どんな学習材を選び、授業を仕組んでいくべきなのか、子供に学びながら研修を深め、一人一人の個性に応じた存在感、有用感の育て方をこれからも探っていきたい。

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