脳死を考える 3 〜低体温療法とバチスタ手術〜(5年:学活)

 脳死は現時点での救命医療の限界点である。今ここにどうしても助からない人がいて、すぐそばに移植を待つ患者がいるとすれば、死にゆく人(脳死と判定された人=死んだとされる人)が生きる可能性のある人に臓器を与える行為は、確かに現時点では最良の選択なのかもしれない。
 しかし、医療は日々進歩している。「臓器移植しか助かる方法はない。」と言われても、別の方法で一命を取り留めた人もいれば、ほぼ100%の確率で脳死となるはずの人が、必死の救命医療で意識を取り戻し社会復帰まで果たした例もある。命の限界点は、日々動いている。

 今日は、1997年2月放送のNHKスペシャルと、2001年放送の「プロジェクトX 挑戦者たち」のビデオを子どもたちと視聴した。臓器移植に代わる医療の可能性を大いに感じたビデオだった。子どもたちも感心したり、考え込んだりしながら見ていたが、視聴時間が長くなったので、視聴後は感想を述べ合うだけで終わってしまった。またの機会に補足したい。
 
 今日の子どもの反応はこちら。↓

<脳にダメージを受けた人のための低体温療法について>(1時間)
・ アメリカは脳死寸前の人をあきらめて臓器を摘出しているけど、日本はひとりひとりを大事にしている。電話などで、治療法を教え合ったらいいのに。
・ アメリカはクモ膜下出血で脳死直前の人の治療をしないで臓器だけは取るけど、助かる可能性はまだあるかもしれないし、もし助からなくても次のことにつながる可能性はあるから、絶対諦めちゃあだめだと思った。
・ 林さんの病院は最後まで脳死になりそうな患者に手を尽くしていた。確かに1人の脳死で70人助かるかもしれないけど、泣いたり汗をかいたり体の表情があるんだから、それを無視して麻酔をかけて摘出するのはやっぱり罪だと思った。
・ 間違いなく脳死と思われていた人が生き返り、大きな声も出せたのがすごい。
・ もう死しかない人を諦めずに冷やす。やっぱり諦めない、その気持ちが大切だと思う。私が脳死直前だったら、脳死判定ではなく、体を冷やしてもらって生きたいと思う。
・ ぼくは世界が日本を尊敬していくべきだと思う。アメリカは低体温療法を2日しかしないのは間違っている。林先生は人の命がどんなに大事か、ものすごく分かっている。
・ 同じ症状でもアメリカは臓器移植をするけど、日本は助けるための手術をするのがすごく違うと思った。患者さんのためにあんなに頑張って、他の医者だともう見捨てるのに、ずっと意識が戻るまで見守っていたのがとてもすごいと思った。
・ 臓器を取るためじゃなく、助けるために手術してよかった。
・ ぼくはビデオを見るたびに考えが変わってしまう。脳死の人の臓器を取って他の人が助かるんなら助かってほしいと思うし、今回みたいなビデオを見たら、また気が変わって、脳死した人からの移植はいけないと思うから、やっぱりどっちがよくてどっちが悪いかじゃあないと思った。
・ まだあまり成功率が高くないと思ったけど、半分以上の人が助かっているのを知ってすごいと思った。
・ 人の生と死がかかっているんだから、林先生の考え方の人をどんどん増やしていってほしい。
・ この方法がなくなってしまわなければいいと思った。

*注* 子どもの言葉の中に出てくる「林先生」とは、低体温(脳低温)療法の生みの親、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センターの林成之教授のこと。脳死前に脳が42℃まで温度を上げ脳圧が高まることから、体を冷やすことによって脳を冷やす方法を開発した。
*注* 低体温療法はアメリカでも取り入れられたが、体への感染症への予防(体を冷やすと脳にはいいが、体はダメージを受ける)から、患者の容態に関わらず、2日間だけと決められている。子どもたちもアメリカ的合理主義は、ちょっと受け入れにくいようだった。



<重い心臓病(拡張型心筋症)の人のためのバチスタ手術について>(1時間)
・ 大切なところを切り落としたりしないのだろうか。
・ 手術が成功してよかった。もし失敗したら、(これ以降の)たくさんの人が死ぬことになるからだ。
・ 病気になると人生が変わる。その人たちを助けるんだからお医者さんはすごい。
・ 最初の手術で死んだ人の奥さんの手紙が来なかったら、日本にバチスタ手術はなかったのかもしれない。これからも続けてほしい。
・ 「急いでいると周りは見えない。ゆっくり歩くときれいに見える。」私もそうだと思った。
・ 「苦しんでいる人を見捨てることはできない。」という言葉が心に残っている。失敗もあったけど、諦めずにやったから今があるんだと知った。
・ 失敗しても諦めないのがすごい。反省していなかったらまた失敗したかもしれない。2回も失敗したら、取り返しのつかないことになるから、成功してよかった。もっともっと人を助けてほしい。
・ 今まで助からなかった病気がどんどん助かっていくのは、すごい進歩だ。
・ ぼくはこの方法を初めて知って、とても驚いた。なぜなら、心臓の肉を3分の1も切り落としてしまうと、切り落とした部分の機能が悪化して、逆に死んでしまうのではないかと思ったからだ。この方法を初めてやった人はとても緊張したけど、とても勇気がある人だと思った。この方法を続けていけば、いつか心臓移植はなくなると思う。
・ 大島さんが桜を見て、「桜がこんなにきれいだったなんて知らなかった。」という言葉は、苦労をしてこその言葉であり、気持ちだと思う。そう思わせる手術を、なくしてほしくないと思った。

*注* パチスタ手術とは、普通の人の2〜3倍に肥大した心臓の収縮力を取り戻すために、心臓の肉を切り落とす手術。 日本で初めて林 宏光医師が手がけた。


  医学がもっともっと進歩して、無念な思いをする人が、ひとりでも少なくなってほしい・・・子どもたちの感想からは、そんな思いが感じ取れた。また、諦めないで努力し続ける姿にも、多くの子が感動していた。移植医療が他の国ほど進まなかった日本だからこそできた事だと思うのだが、子どもたちは日本の医者のすごさについても、誇りを感じたようだった。

 



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