つよいこころ・よわいこころ(T小2年&K小3年:道徳)

【資料:わらったねこ】

いっちゃんは先生から算数のテストを返してもらいました。
惜しいことに一つだけ△がついていました。
その一つの△を、いっちゃんは、お母さんや妹に見せるのがいやでした。だって△があるのがわかったら笑われそうです。
「そうだ。△を消して、○に書き直してやろう。」
いっちゃんが、消しゴムで消そうとした時、コトリ、と、後ろで音がしました。
驚いて振り向くと、いつの間にか、猫のたまが来ていました。
青く光った目で、机の上の直しかけのテストを見ているような気がします。
猫なんかにわかるものかと、△を消そうとすると、たまの口の辺りがピクピクと動いて、笑ったように見えました。
いっちゃんは、急に恥ずかしくなって、直すのをやめました。

(久保喬 作「ねこがわらったとき」より)



同じ資料と指導案で、T小2年19名とK小3年29名を対象に、1日違いで授業した。

内容項目は、両学年とも「1主として自分自身に関すること」の(4)。
2年は「うそをついたりごまかしをしたりしないで、素直に伸び伸びと生活する。」
3年は「過ちは素直に認め、正直に明るい心で元気よく生活する。」


【道徳学習指導案】

1 主題名 強い心・弱い心 (資料:「わらったねこ」)
2 主 眼 いっちゃんの気持ちを考えることを通して、嘘やごまかしをせず、正直に生きることへの意欲をもつ。
3 準 備 いっちゃんの顔の絵・猫の絵・プリント(児童数)
4 展 開

学習活動・内容 発 問 教師の手立て
1  本時の課題をつかむ。 
・ うそをついた経験
・ ごまかした経験
 うそやごまかしをして後悔したことがあるか。  これまでの生活の中で、嘘をついたりごまかしをしたりして、嫌な思いをしたことを想起させる。
 「わらったねこ」の範読を聞き、主人公いっちゃんの気持ちを考える。
・ テストを見た時の気持ち
・ 猫に気付いた時の気持ち


 いっちゃんは、テストを見た時どう思ったか。
 プリントへの記入や話合いを通して、主人公の残念な気持ちや、結果を素直に受け止められない気持ちに共感させる。
 いっちゃんが猫に気付いて思ったことは何か。  やましい心があるからこそ、小さな音に驚いたり、猫にさえ見透かされている恐怖をもったりしたこと、猫の表情さえも気になることに気付かせる。(評価ア)
不正を働いた後の気持ちを考え、話し合う。
・ 自分の気持ち
・ 不正を知った人の気持ち
 ごまかした後はどうなるか。  ごまかした本人と、ごまかされた人、それぞれの気持ちを考えさせ、誰もスッキリしないことに気付かせる。
学習のまとめをする。
 ・ 心がスッキリするためには
 ・ 自分の心の中にある強い心、弱い心
 ・ 自分の行動の振り返り
心がスッキリする方法は何か。  自分の心の中の「強い心」「弱い心」は何か、振り返らせる。 (評価イ)
 強い心は各自の考え方次第で育ったり消えていったりすることを伝え、強い心を大きく育てて立派に成長してほしいことを話す。

5 評価
 ア 主人公が猫を見て感じたことを想像することができたか、プリントへの記入や発言によって見取る。
 イ 自分の心の弱さを見つめることができたか、プリントへの記入や発言によって見取る。



【T小2年の子どもたちの反応】



1 テストを見た時の気持ち
・悔しいなあ。どうしよう。よし、次は絶対100点を取るぞ。
・あ、いっこ△だ。これは見せたら笑われるぞ。
・全部○かと思ったら、1つ△だったからがくっとなった。
・悔しいな。僕もう少しで100点だったのに。
・見せたら怒られる。
・見せたら絶対笑われる。
・もしかしたら、怒られるかもしれない。どうしよう。100点とれば良かった。
・次に100点とったら見せられる。
・△がついて嫌な気持ち
・がっかり。もうちょっとで100点だったのに。
・これは誰にも見せたくないぞ。
・1つだけ△なんて嫌だな。
・「頭悪~」って妹に言われるのが分かるから嫌だな。
・どうしよう。ドキンとした気持ち。
・嘘をついたら後悔するけど、笑われたくない。


2 猫に気付いた時の気持ち
・猫は目がいいからお母さんに訴えることができると思う。猫には、消そうとしたことが見える。猫にばれた。
・猫だ、やばい。いっこ△とばれる。でも、猫だから大丈夫だ。
・消そうとしたのを見られてしまった。
・猫にばれたぞ。でも猫にわかりっこないよ。
・家で消さないで、外で消せば良かった。
・しまった。猫でも気持ちは分かるんだ。
・しまった。なんでいるんだ。
・えー、せっかくばれなかったのに。
・ちくしょう、見られてたか。
・早くどこかに隠さないと。
・ばれるんなら嘘をつかなけりゃ良かった。
・すぐばれるかな?
・お母さんには答えが分かるから、○に変えてもばれるな。
・お母さんがひとつひとつ見て、△だったのに○に変えたと気付かれたら怒られるから嫌だな。
・猫に見られたから、そのまま見せたら良かった。
・猫はお母さんに伝えることができると思う。
・なんで見てるんだ。


3 ばれなかったら安心できるか。心が一番スッキリする方法は何か。
・正直に言う。
・次に頑張る。
・嘘はつかない。
・お母さんにテストを見せる。
・次は100点とるぞ。
・お母さんに見せないとスッキリしない。
・次に頑張ればいい。
・ばれなかっても安心できない。ずっと気になる。
・笑われてもいいから正直に言う。


4 あなたの心の中にある「強い心・弱い心」
・遊べるのに遊べないと言った。
・弟に「あ、あそこにユーフォー」と言った。
・弟に「ぶりぶりざいもんがいる。」と嘘をついた。
・遊ぶ約束をしたのに約束を破ったから、次から約束を守る。
・宿題をやったと嘘をついた。
・正直に見せよう。次は100点とってやる。
・遊んでいい時間より長い時間遊んでしまったから、次は遊ぶ時間を守る。
・怒られるより笑われる方がいい。



【K小3年の子どもたちの反応】



1 テストを見た時の気持ち
・あ、1つだけ間違っている。どうしよう。お母さんに見られたら笑われちゃう。
・△が1つか、こりゃ、まずい。
・このまま見せたら笑われる。嫌だな。
・あーあ、惜しかった。せっかく全部○になっていると思ったのに。
・見つかったらどうしよう。
・見せるのが嫌だな。
・悔しい。ごまかしてやろう。
・くそ~。悔しいな。
・あー、惜しかったな。
・自分はこんなに悪いんだな。
・○に変えたらばれないや。
・がーん、なんで○じゃないんだ。
・なんで僕、間違えたんだ。がーん、なんでだよう。
・まずいな。


2 猫に気付いた時の気持ち
・何だ、たまか。びっくりさせないでよ。猫なら分からないからいいや。
・うーん、やっぱりちゃんと見せようかな。
・猫には答えは分からないはずだ。
・何かコトン、って音が。
・猫は字が分からないからいいや。
・何でこっちを見てるんだ。
・げ!テスト見られちゃった。
・お母さんが猫に頼んだのかなあ。
・猫なんだけど、何か嫌だな。笑ってるからちょっと嫌だな。
・見てるけど、猫には分からないから○にしようかな。
・なんでここにいるんだ。あっち行ってよ。
・急に恥ずかしくなった。言われたらいけないからやめる。大きい声を出されたら嫌だな。
・猫に見られてしまった。
・嘘をついたら後悔する。△はしょうがない。
・僕しかいなかったのに、どうしているんだろう。
・なんで見てるんだ。


3 ばれなかったら安心できるか。心が一番スッキリする方法は何か。
・嘘をついたら心に残るけど、正直に言ったら後は心に余り残らないでスッキリする。
・ちゃんと見せる。
・正直に△のところを見せて、後は「頑張る」と伝える。
・子どもの間にはっきり言うようにする。
・正直に見せて笑われても、後で心がスッキリする。
・嘘をついたらばちが当たる。
・嘘をついたらばれるかもしれないと思って心配になるから、正直にした方がいい。
・正直な方を選びたい。
・ごめん、1個だけ間違えたと言えば、励ましてもらえる。
・怒られても次のテストを頑張ればいい。
・私はちゃんと見せる。
・正直な方を選んでも怒られることはないと思う。正直を選ぶのがいい。
・嘘をついたら後でばれるかもしれないから、正直に言う。
・正直に出して、怒られ終わったらスッキリする。
・お酒を飲ませて忘れさせる。
・嘘をついても最後にばれたら怒られて、やらなければよかったとなって、正直に見せたら次のテストで頑張ればいい。
・「やった!ばれなかったから、今度から○にしよう。」
・ばれなくても安心できない。その気持ちが離れなくなる。
@  ここでは、「ばれなくても騙せばドキドキする」という心情を味わわせたかったのだが、
 「やった!ばれなかったから、今度から○にしよう。」と答えた子どもがいた。
 「良心」は誰にでも備わっているものではなく、あらゆる体験を通して学び取っていかなければならないものなのだと改めて思った。


4 あなたの心の中にある「強い心・弱い心」
・私は時々、後からテストを出すことがある。これからは先に出したい。
・正直に言うのが強い心。弱い心は嘘を言うこと。
・棚の後ろに隠せばいい。
・強い心は、テストで間違いがあってもごまかさないところ。弱い心は言われたことをすぐにしないところ。
・強い心と弱い心、どっちもある。お母さんに笑われても自分が間違えたんだから恥ずかしくない。
・怒られるより笑われる方がいい。
・笑われても自分がしたことだからしょうがない。



 
人間、誰でも嘘をつくし、自分に不利なことにはなるべく触れられたくないものだと思う。
 しかし、だからこそ幼いうちから「良心をもって、明るく生きていこう」と教えていかなければならないのだと思う。
 おしつけのような道徳には抵抗もあるが、誰もが気持ち良く健全な学校生活や社会生活を送るためには、良心のありようはしっかりと教えていくべきものだと思う。
 
 3年生男児の「やった!ばれなかったから、今度から○にしよう。」という発言は、自分を守るための発言であると同時に、自分の心の成長を妨げ、自分を偽る感情であるとも言える。
 こうした心がけで暮らしていると、いずれ周囲への信頼を失い、自分を大切に生きることにもならないのではないかと心配だ。
 授業の中では叶わなかったが、彼にはありのままでいられないことの気持ち悪さを感じさせたいし、自分らしくスッキリとした気持ちで生きるすがすがしさをいつかは分からせたいと思う。
 
 こんな時、担任ではないのが残念だ。素直な表現ができる子だからこそ、道徳的心情の変化も、きっと期待できると感じている。



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