福祉の心をもつ子供の育成

             
〜「天王園」のお年寄りとの交流を通して(4年生)〜

(1)主題について
 2025年には、4人に一人が65歳以上の高齢者となり、生産人口は現在の半分になるという。25年後というと、現在の子供たちは30代半ばの働き盛りである。
 だが子供たちには、高齢者とふれあったり介助したりといった具体的な体験はあまりなく、自分たちが高齢化社会の担い手であるという意識もはなはだ低いのが現状である。
 そこで本主題を設定し、高齢者と直接ふれあう体験を通して高齢者への適切な接し方を学ぶと共に、高齢者福祉が自分とも関わりのある事柄であることを理解し、社会の一員としての自分の在り方を考えるきっかけとなるよう支援することとした。
  ここでは「福祉の心」を、
・ 相手の立場に立って物事を見つめ、解決しようとする心。
・ 全ての人のQOLを認め、それを追究しようとする心。
・ 共に生きようとする心

 と捉え、特別養護老人ホーム「天王園」のお年寄りとの交流を通して、子供たちが育んできたものについて紹介したい。

(2)実践の概要
@ 子供の実態
 本校4年生の子供たちは、明るく素直な子供が多く、誰とでも仲よく遊ぶことができる。
 現在、祖父母と生活を共にしている子供は11名おり、この子供たちに限っては、時には祖父母以外のお年寄りとのふれあいもあるようである。また、生活は別だが頻繁に行き来のある者も数名いる。だが、子供たちがふれあったことのあるお年寄りは、皆「お年寄り」と呼ぶには気後れするばかりの元気な方ばかりであり、自力での生活が困難なお年寄りを知っている子供は皆無である。福祉という視点で社会を見つめる目は、まだ子供たちの内面に育っていないと言える。

A 活動のねらい
・ 「天王園」のお年寄りとの交流を通して、世代や立場の違う人の気持ちを考えたり、社会福祉に関心をもったりする。
・  高齢者福祉が、家族や地域のボランティア、施設の職員の方々の地道な努力によって支えられていることに気付き、自分にできることを考えたり、実行したりする。
・ 体験を通じて感じたことを、絵や文章などで豊かに表現する。

B 活動計画(全20時間)
活 動 内 容
第1次 ○ お年寄りについて調べる。(3時間)
・高齢者のイメージ
・町の高齢者の数
・身近な高齢者へ、困っていることのインタビュー
第2次 1 「80歳になって歩いてみよう」(高齢者疑似体験)(3時間)
・老人性難聴
・白内障、ぼやけて見える状態
・関節が曲がりにくい状態
・体験をして感じたことの話合い
2 車椅子、ブラインドウォークを体験する。(2時間)
・車椅子の扱い方
・介助の方法
・体験をして感じたことの話合い
○ 天王園訪問の計画を立てる。(2時間)
第3次 1 天王園を訪問し、交流する。(3時間)
・利用者の生活の様子の見学
・歌と合奏の発表
・職員へのインタビュー
・利用者の話し相手、オセロゲーム

2 天王園を訪問し、介助を体験する。(3時間)
・高齢者の身になった介助の仕方。
・話題の持ち方

3 自由に訪問する。
第4次 ○ 感じたこと、分かったことなどを絵や文章に表現し、学習のまとめを
する。(4時間)
・介助をした感想
・自分にできること

 
C 活動の様子
  ア 第一次
・ お年寄りについてもっているイメージや感じていることは、次の通りであった。
* 体力がない。忘れやすい。長く歩けない。けがをしやすい。聞こえにくい。声が小さい。優しい。孫を大切にする。がんばっている。レジで並んでいる時、ゆっくりお金を出す。バスに乗る時ゆっくり歩く。入れ歯を見せないでほしい。聞いた話を何度もする。話がめちゃくちゃ長い。
  
・ 祖父母や、その友達にインタビューをした子供たちが、その内容を発表した。これにより、身近にお年寄りがいない子供たちにも、在宅の高齢者の生活の様子や、高齢者施設の意味、入所者の様子等が大まかに見えてきたようであった。

・ また、学校図書館で「ボランティアシリーズ」を借りてきた子供がおり、しばらくの間、クラスで借りて全員で読み合った。この本により、世の中には元気なお年寄りばかりではないことや、日常生活で助けを必要とする人がいること、そしてその人たちを支える人々の存在などを知ることができた。
  
  イ 第二次
・ ここでは、ゲストティーチャー(社会福祉協議会職員)の指導により、一人一人が高齢者疑似体験セットを身に付け、紙に書いて封筒に入れた課題をこなす活動を体験した。
・ 体験は3人組で行い、交代で、1人が疑似体験者、1人が介助者、1人は様子を観察する人という役割で活動した。

* 疑似体験セットの内容・・・耳栓(高音域を聞きづらくした耳栓で、老人性難聴特有の聞き難さを知る。)・眼鏡(加齢によって生じる白内障による色覚変化、ぼやけて見える状態や視野の狭さを知る。)・荷重チョッキ(加齢に伴う前かがみの状態を作り、疲労感を知る。)・肘膝サポーター(筋力の衰えによっておこる肘や膝関節の緩慢な動きを知る。)・手袋(手指の感触、圧覚、温覚などの低下により、物がつかみにくく落としやすい状態を知る。)・靴型サポーター(足首の関節を固定することで、歩く時につま先が上がらずつまずきやすくなる状態を知る。)

・ 課題は次の4つとした。
@ 一番安いミカンを買う。
A 12月9日、午後10時の教育テレビの番組を調べる。
B 177で、山口県東部の明日の天気を聞く。
C 椅子に座って、ポカリスウェットを飲む。

・ 課題が書かれた中の紙を見るため封筒から紙を出すのだが、装具を付けた状態ではそれがうまくいかず、苦労して紙を取り出しても、はっきりと文字を読み取ることが困難で、人に聞いて課題を確かめている子供が多かった。
・ @では、体育館の壁に貼った値札(色紙にマジックで書いたもの)を見て、一番安いミカンを探し、がま口型の財布からお金を出してレジに支払うという体験をした。値札が見えなかったり、お金を落としたり、手足が思うように動かずそれを拾えなかったりと、非常にもどかしげな様子だった。
・ Aでは、日付の違う新聞を長机に4種類置き、それを体育館2階のギャラリーに用意した。2階まで階段を上っていかなければならないのだが、膝が曲がらないためわずかな段数で息切れをする子供が多く、「あー疲れたー。」などと叫びながら上っていた。視力も低下しているので、目的の欄がなかなか見つけられず、ここでも相当もどかしげであった。
・ Bではテレフォンカードの向きが分からなかったり、番号が押せなかったり、アナウンスの声が聞き取れなかったりして、課題達成をあきらめる子供が多かった。
・ Cでは、ペットボトルのふたを開けるのに手間取った。コップにつぎ、どうにか椅子に座っても目や肘、指などが不自由なため、コップを口につけることが困難で、こぼす子供もいた。
・ 介助者は、求めがあった時だけ介助し、全てを代わりにやってしまうことのないよう事前に注意しておいたが、一つ一つの動作にあまりに時間がかかるので、思わず手を出してしまうチームもあった。また、友達同士の気安さから、「まだ?」  「早く!」などの心ない言葉を発する子供もいたので、相手の立場に立って考えるよう注意した。「お手伝いしましょうか。」など、実際に困っている高齢者と出会った時、躊躇なく言えるよう、事前に練習する場面があればよかったと感じた。
   
  ウ 第二次ー2
・ ブラインドウォークとその介助も皆初めての体験であった。体験者と介助者の2人組で交代して体験した。
・ 目を隠した途端、一歩も歩き出せない程の不安感を示す子供もいた。また、介助の仕方がまるで分からず、働きかけが全くできない子供もいた。
・車椅子に乗ったのも全員初めてだった。足の乗せ方、バックの仕方、坂の下り方等、指導員の先生に教えられ、乗る人への細かい配慮を学んだ。
・体験前に、「ジュニアボランティア読本」により、車椅子の各部の名称を知ったり、街の中で不便なところを考え合ったりしておいた。また、道徳の副読本の資料により、目の不自由な人の気持ちを考える学習も行った。

< 事後の感想 >
・これからお年寄りに出会ったら、元気な声であいさつしたい。
・話し相手になりたい。つえがじゃまそうだったら、持ってあげたい。
・知らんぷりをしないようにしたい。
・聞こえないようなら近くに行って言ってあげようと思った。
・手伝いをいっぱいしたい。
・目で見て信号機が何色かわからないようだったら、いっしょにわたってあげたい。
・住みよい町にしたい。
       
  エ 第三次
・ まず、施設内を見学しながら、出会った利用者に自己紹介をした。初めは子供たちも羞恥心からあまり大きな声が出せなかったが、大きな声でなければ相手に伝わらないことなど自然に分かり、だんだんと自信をもって接するようになっていった。
・ 自己紹介の後は、一緒にオセロゲームをしたり、お年寄りの奏でる電子オルガンの演奏を聴いたり、雑談したりして、楽しいひとときを過ごした。何を話していいのか分からない様子の子供も何人かいたが、戸惑いながらもにこやかに過ごしており、場と時間を共有するだけでも、得るものは大きいと感じた。回を重ねるごとに会話も弾むようになるのではないだろうか。
・ その後、移動ができるお年寄りには食堂に集まっていただき、交流会をもった。子供たちは4グループに分かれて、自分たちで考えた出し物を発表した。どの子も真剣な表情で、力一杯発表することができた。
・ 職員へのインタビューでは、高齢者への様々な配慮を教えていただき、皆感心しながら聞き入っていた。
  
 オ 第三次ー2
・ お年寄りとの会話にも少し慣れ、緊張せずに接することができるようになった。
・ 目の不自由なお年寄りのために、本を読んであげたり、手紙をテープに録音してプレゼントしたりする子供がいた。
・ パートナーのお年寄りが亡くなった子供がおり、寮母さんの配慮で帰省中だと聞かされたが、それでよかったのかと今も心に残る。また、子供たちのパートナーとなって接して下さったのは、入所者の中でも比較的元気な方ばかりであった。奥の棟に行くと痴呆の方や身体障害が重度の方もたくさんおられたのだが、子供とふれあうことはなかった。その方たちを力づけることもできたのではないかと心に残る。

 オ 第四次
───────── <子供の反応>─────────────
・ おばあちゃんにあく手したら、その手がすごく温かくて、しっかりにぎり返して、「ありがとうね。」と言われた。次に行くときも、たくさんのおじいちゃん、おばあちゃんにやさしくしたい。
・ ○○さんが車いすをおして、ぼくがおばあちゃんと話した。おばあちゃんは話してたらすごく喜んで、うるうるしてきた。ぼくも最後、涙が出た。
・ 歌を歌ったら、みなさんに喜んでもらえてうれしかった。
・ 大きくなっても、ひまがあったら行きたい。
・ 私が車いすをおしたおばあちゃんが、私を「まごみたい。」と言ってくれて、すごくうれしかった。
・ 101才の方は、自分でもがんばっているけど、天王園のみんなに助けられていると思った。
・ 100才以上の人は、金さん銀さんくらいかと思ったら、天王園にもいたので、 すごいと思った。
・ 「すごくうれしかった。」と言ってもらった。ぼくがおじいちゃんになってからのことを思ったら、ぼくもうれしい。
・ 目の不自由な人がいたら、「そこは危ないですよ。」とか、ちゃんと言ってあげたい。
・ 手紙を書いて送りたい。
・ 栄養士さんはすごく大変なのが分かった。
・ 働いている人は、みんなお年寄りの気持ちになっているのが分かった。ぼくも天王園の人みたいに役に立ちたい。
・ 90度まで曲がるベッドなどあったので、すごかった。
・  こんなに喜んでもらえるのなら、毎日でも行きたい。
・ 今度来る時は、自分からたくさん話しをしたい。
・  お年寄りの名前をたくさん覚えて、みんなを名前で呼んであげたいと思った。
・ 相手の立場で考えてみることが大切だと思った。世の中は元気な人ばかりではない。
・ お年寄りのために町の予算をたくさん取ってほしい。
  
(3)考察
 本校では毎年4年生が学年行事として天王園を訪問し交流をもってきたが、実のところ、訪問がその場限りのものと終わってしまうことが多く、せっかくの体験を子供の生活に生かしたり、社会福祉について考えるまでは達しないジレンマに陥っていた。
  しかし今回は、総合的な学習の時間を利用し、高齢者福祉について考えるという視点を明確にし、訪問計画も自分たちなりに立てたことで、子供たちが自分の生活やものの考え方を落ち着いて振り返ったり、福祉について考えたりするゆとりが生まれ、有意義だった。
 訪問に先立って、高齢者へのインタビューや高齢者疑似体験、車椅子・ブラインドウォークの体験をしたことも、学年行事として行っていたこれまでと違って、訪問を実りあるものに導く一因となったように思う。高齢者を自分の理解の及ばない全く別の世界の人と見なすことなく、誰もが相手の身になって優しい態度で接することができたし、単元終了後もたびたび園を訪れる子が多かった。

 今回の実践で、子供たちは社会福祉の一端に触れ、社会への視野を広げたように思う。また支え合う心の大切さを知り、自分たちにできることやこれからの自分の在り方を考えるきっかけを得ることもできたと思う。
 これからも、様々な体験を積み重ね、社会における自分の役割や課題を探しながら、周囲の人とよりよい人間関係を結ぼうとする実践的な態度を身に付けていってほしいと思う。

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