わたしの「わたし」(第3学年:道徳)

1 ねらい
 
 性別で違った育てられ方をするわけを考え合う中から、既成の男女観の不合理に気付き、性別で人を決めつけることなく、個性を大切にして生きていこうとする意欲を育てる。

2 準備

ジェンダーに関する事前調査の結果、各種の職業で活躍する両性の写真・記事、ワークシート

3 展開


学習活動・内容 教師の支援・評価
1 事前調査(1)の結果を知り、気付いた
 ことを話し合う。
・自分の性に生まれて損をしたと思ったこと
・損をしたと思ったわけ
・家や学校で言われたこと
・女のくせにor男のくせに…
○ 事前にとったジェンダーに関する調査
 結果(1)を提示し、気付いたことを発表す
 るよう投げかける。
(発) 自分の性に生まれたことを、どうして
 損だと思ったのかな?
○ 損だと思ったわけを考える中から、性別
 で異なる期待像があることに気付くように
 する。
(発) 女らしい(男らしい)ってどういうこと?
なぜ性別で違う育てられ方をするのだろう?
2 性別で異なる期待が持たれるわけを
 考える。
・作られた、女らしさ・男らしさ

(発) どうして女らしく(男らしく)育てるの
 かな?
○ 性別で育てられ方が違うわけを想像し、
 自分の考えを述べるよう促す。
○ 出された意見を類型化することによっ
 て、ステレオタイプの「女らしさ」「男ら
 しさ」の中には、自分らしさを損なう装置
 となり得るものもあることに気付くように
 する。


3 自分のこれまでの生活ぶりを振り返る。
・女の子だけとしか遊ばなかったこと
・男の子だけとしか遊ばなかったこと
・いろいろな職業
・これからの生き方
(発) 遊びや生活の中で、「個人」の違いより、
 性の違いを強調して考えることがなかった
 かな?
○ 事前調査(2)(3)の結果を提示し、自分の
 心の中にもジェンダーによるバイアスがあ
 ることに気付くようにする。
○ 各種の職業で活躍する両性の写真を提示
 し、性の違いに縛られず、自分らしさを大
 事に生きていってほしいことを伝える。
(評) 性別にこだわらず、自分らしさを大切に 
 して生きていこうとする意欲が高まったか、
 ワークシートの記入により捉える。


5 事前調査の結果(女子16名・男子12名)

 (1)自分の性に生まれて損をしたと思ったことがあるか?
   ある(♀5名・♂3名)、ない(♀8名・♂9名)、無記入(♀3名)
 (2)女と男の違いって何?
    ・ 女は胸の間に毛が生えない。   
    ・ 女は落ち着きがあって、男は落ち着きがない。
    ・ 男は勇気をもって生きている。
    ・ 男は結構運動神経がいい。女は結構優しい。
    ・ 男子は勇気がある。女の子はきれい好き。
    ・ 女は泣いてもいい。男は泣いてはいけない。
    ・ 女の子はおしとやかに。男の子は力強く。 
    ・ きれいで優しい人は女らしい。
 (3)どちらの性に向いているかな?
    ・ 運動会の応援団長……………♀0名・♂12名・どちらも 16名
    ・ きれいな字を書く…………   ♀8名・♂ 1名・どちらも 19名
    ・ 授業中、自分の意見を言う… ♀1名・♂ 9名・どちらも 17名
    ・ 体育を頑張る………………  ♀0名・♂10名・どちらでも18名


* 授業の記録 * 

<活動1>

 事前調査(1)の結果をグラフで示し、自分の性に生まれて損をしたと思った人の割合をつかませた。男子よりも女子の方に、損をしたと思う人の割合が多いことにも子供たちはすぐに気付くことができた。
 損をしたと思ったわけは、次のようなものであった。
 ・ 女の子だからきれいに片付けなさいと言われる。(10名)
 ・ 女の子だから乱暴な言葉を直しなさいと言われる。(8名)
 ・ 女の子なのに行儀が悪いと言われる。(8名)
 ・ 女の子だから手伝いなさいと言われる。(5名)
 ・ 女の子だからきれいになりなさい、女の子だから髪を切らないようにと言われる。
 ・ たまにはスカートをはきなさいと言われる。
 ・ 家ではいつもズボンなのに、学校では女子だけスカートをはかなければいけない。
 ・ 男だから泣くなと言われる。(4名)
 ・ 男だから外で遊びなさいと言われる。(4名)
 ・ 男だからしっかりしなさいと言われる。(2名)
 ・ 男だからいじけるなと言われる。(4名)
 ・ 柔道で、女に負けるなと言われる。
 ・ 男だから髪を切りなさいと言われる。
 ・ 男だからマラソンで1位になれと言われる。
 ここでは、女子のほとんどの子供たちが、また男子の3分の1程度の子供たちが、家庭や学校で、既成の男女観(男は強く元気でたくましく、女は優しくきれいで家事ができる?)にとらわれた言動を期待されていることが確認できた。一人一人の個性を見れば、そうしたステレオタイプは極めて不合理であり、子供たちが納得しているわけでもないのだが、それでも多くの子供たちは周囲の大人の期待を甘んじて受け止めている(受け止めざるを得ないでいる)ことも分かった。

<活動2>
 性の違いによって、なぜ別の期待がもたれるのだろうか。子供たちに尋ねたところ、すぐに「女の人は赤ちゃんを産むから。」という返答が返ってきた。だが、別の子供たちから「僕のおばちゃんは子供を産まないんだって。」「欲しくてもできない人もいるよ。」などの意見が出されると、「それなら違いはないよね」「なんで違うこと言われるんだろう」などのつぶやきがあった。
 男(女)に許されて女(男)に許されない既成概念の疑問視など、性のダブルスタンダードは現代社会の中で、既にひずみを見せ始めている。未来を生きる子供たちが、自分の性ゆえに果たせない夢があるとしたら、教師として何と罪作りなことかと思う。我々教師は、知らず知らずのうちに、男女二元論(男女二分法)という暗黙のメッセージを子供たちに伝え、個性を抑圧してしまっていないだろうか、今一度振り返って考えてみる必要がある。
 活動2の後半は、ステレオタイプの「らしさ」というものが、抑圧的に作用する場合もあることを、板書を見ながら確認した。

<活動3>
 次に、遊びや生活の中で、「個人」の違いより、性の違いを強調して考えることがなかったか、反省してみるよう促した。ここでは、事前調査(2)(3)の結果を提示し、自分が想定したり容認したりしている性の区別にも、その人らしさを損なうものがあるのではないかと投げかけた。性の区別に不合理を感じながらも、自らもまたジェンダーを再生産しているという事実に、子供たちは気付くことができた。そして、
 ・ 家族ごっこで、差別と分からずに差別していた。
 ・ 応援団長だって、男でも女でもどちらでもいいと思った。
等の意見を述べ合った。
 最後に、性の違いに縛られず自分らしさを大事に生きていってほしいことを、写真や新聞記事を示しながら語ると共に、「わたし」の主人公は、紛れもなくわたし自身であることを伝えて授業を終えた。
 以下は、授業後の子供たちの感想である。
 ・ 男の子と女の子が区別なく仲よくするといいと思う。勉強をしたんだから、これからはもっと仲よくなると思う。
 ・ 弟は私に「女だからやっちゃあいけないよ。」と言うことが多いので注意したい。
 ・ なんでかばんの色とか制服とかが違うのか、ほんとに不思議だ。
 ・ 女の子が髪を短くしたりしてもいいと思う。
 ・ ぼくは父母からよく髪を切れと言われるけど、どうしたいのか、自分の気持ちをちゃんと言いたい。
 ・ 男でも女でもどっちでもいいと聞いた時、ほっとした。
 ・ 差別する人がいっぱいいて、自分もちょっと差別していたことが分かった。
 ・ 男の人だけ戦争に出すのも差別と思う。
 ・ これから強くなって、差別しない大人になりたい。

 ありのままの自分でいいことを伝えたくて、本授業を行った。「女(男)だからできない」「男(女)なのにできない」などという否定的で抑圧的な意識から一刻も早く解き放たれ、どの子も自分に誇りを持って伸びやかに成長していってほしいと心から願っている。

 
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